ユタカくんとの結婚資金を貯める。
そう決めてから、1ヶ月。
私はなんとか自分の指名客を確保しようと躍起になっていた。
園田さんは積極的に私をフリーのお客様に付けてくれたけど、なかなか成果が出ない。
場内指名をもらえたとしても、それっきり指名が返って来なかった。
「一緒にプライベートでご飯食べに行こう」というお誘いだけが無駄に増えた。
私の指名客は橋田さんくらいしかいなかったが、橋田さんも月1回来るかどうか。
他の女の子は指名客が来て、シャンパンがどんどん出ているのに。
正直、めちゃくちゃ焦っていた。
とにかく何かしなくちゃ。
そう思い、待機室で連絡先を交換した人にひたすらLINEを送っていた。
「あゆちゃん。仕事だよ」
園田さんに呼ばれ、私はスマホをポーチに仕舞い、待機室から出た。
結局、LINEの返事は誰からも来なかった。
今から付くフリー客も、きっと同じような感じなんだろう。
キャバクラを合コン会場と勘違いしてくる客ばかり。
「ほら、あゆちゃん!やる気のなさが顔に出てるよ。もっとシャキッとして!」
いつもなら目が醒める園田さんの言葉だが、今日はもやもやが晴れなかった。
案内された席へ行くと、サングラス姿の30歳くらいの男が座っていた。
うちの店で若い客はめずらしい。
そう思いながら、営業スマイルを浮かべながら「失礼します」と声をかけた。
「お、来たね」
隣に座ると、さっそく肩を組んで密着してくる男。
私は嫌だなと思ったが、キャバクラではよくあることだった。
その体勢のまま、私はお酒を作り始める。
「君、すごくかわいいじゃん。入ってどのくらい?」
「まだ2ヶ月ちょっとくらいですね」
「ふーん、指名客たくさんいる?」
その言葉に、お酒を作る私の手が止まった。
今の質問は、一番聞かれたくないことだった。
「……おーい、ボーイさーん」
いきなり、男がボーイを呼んだ。
その声に、私はハッとして男の顔を見た。
しまった、つまらない女だと思われた?
このままチェンジされてしまう……!
やってきたボーイは、運の悪いことに園田さんだった。
「お客様、どうなさいましたか?」
園田さんは心配そうにお客様と私の顔を交互に見ながら聞いた。
私は恥ずかしさと後ろめたさで、ついうつむいてしまう。
「あのさ、伝票切ってよ。この子指名で飲み直しするから」
「かしこまりました。ありがとうございます」
伝票を切る?飲み直し??
それって、つまり私のことを本指名してくれるってこと!?
あまりの急展開に、頭がついていかない私。
でも園田さんがグーサインしているのを見て、ようやく確信した。
「指名ありがとうございます。いきなりのことでビックリしちゃいました」
「そう?俺、気に入った子はすぐ指名するから。君の名前は?」
「申し遅れました。あゆといいます。お客様は……?」
「山本っていうの。よろしく」
これがのちに私の心に大きな爆弾を落とす、山本さんとの出会いだった。
つづきはこちら⇒第7話 シャンパンの落とし穴