Saikoの執筆した記事一覧

Saikoのコラム一覧

  • 第7話 シャンパンの落とし穴

    それから山本さんは、定期的に私の店へやってくるようになった。 とてもいいお客さんだなって思っていたけれど、それは最初のうちだけ。 お店へ通う頻度が増えるにつれ、私に対して過度な接客を求めるようになっていった。 「あゆちゃ~ん。今日もすっごくかわいいね!」 そう言いながら山本さんは私の太ももに手を置き、指を滑らしはじめた。 30歳くらいだと思っていたが、年齢を聞いてみたらなんと44歳とのこと。 どうりでやることは橋田さんと変わらない。 太ももを撫でられるたびに全身に鳥肌が立ったが、なんとかお酒を作り山本さんに渡した。 山本さんはとにかくボディタッチが多い。 太ももを触られるのは序の口。 隙を見せると、胸を突いてきたりキスをしてきたりする。 なんとか毎回跳ね除けているが、油断ができないお客様だ。 「あゆちゃんはどんな男がタイプなの?」 そう聞いた後、山本さんはゆっくりとお酒に口をつけて飲みはじめた。 まるで私に考える時間を与えてるんだ、というかのように。 「そうですね~優しい人ならそれでいいですね」 ありきたりな答えだな、と我ながら思う。 でもウソではなかった。 ユタカくんはとにかく優しい。 もちろんルックスも良いのだけれど、ユタカくんであれば顔なんて関係ない。 本当に、心からそう思っていた。 「え~!またそんなこと言っちゃって。年齢は?やっぱり同年代じゃなきゃ嫌?」 あぁ、要は自分が恋愛対象かどうかを聞いているのね。 山本さんにバレないように、小さくため息をついてから、営業スマイルで答える。 「年齢は関係ないですねー。フィーリングさえ合えば!」 「本当?でもさすがに40代は嫌でしょ?お父さんとしか思えないんじゃない?」 お父さんという単語を聞いて、思い出したくもない音声が再生される。 お母さんのヒステリックな声、お父さんの罵声、そしてドアが激しく閉まる音……。 私はその音を振り払うかのように、大きめな声でこう答えた。 「普通の40代ならそうかもですねー。でも山本さんは見た目がお若いですし、全然いいと思いますよ」 山本さんは「そう?」と満足そうな笑みを浮かべてお酒を一気に飲み干す。 キャバ嬢はお客様が求める答えをしなければならない。 それが自分の気持ちと相反することだとしても、それが仕事なのだから。 「今日は気分がいいから、あゆちゃんのためにシャンパンを頼んじゃうよ!」 シャンパン――――――。 その言葉に一瞬思考停止してしまう。 「私、シャンパンを入れてもらうの初めて……!」 「本当?じゃあ、あゆちゃんの初めてをもらっちゃうね!こっちもうれしいよ」 ボーイがシャンパンを運んできて、ポンッとコルクを飛ばす。 入店してからずっと憧れていたこの音。 売れっ子キャバ嬢にとっては聞き飽きている音だろう。 でも私にとっては、やっとスタートできた音だった。 「あゆちゃん。シャンパンをお客さんに頼んでもらったら、1杯目は必ず一気飲みしなくちゃダメだよ」 「あ、そうなんですね」 特に違和感を持たずに、言われるがままシャンパンを飲み干した。 「いいね、いいね。いい飲みっぷり!」 その後も山本さんに言われるがまま、どんどんお酒を飲み干す私。 次第に意識がぼんやりしてきて、山本さんの声が遠くに聞こえはじめた。 「どうしよう、酔っ払っちゃったかも」 「いいよ、じゃあ延長するから。ゆっくり休んで」 山本さんのお言葉に甘え、そうさせてもらうことにした。 一気飲みを繰り返したせいか、今までで一番ひどい酔い方だ。 しゃべるのも、体を動かすのもとにかくしんどかった。 「かわいいね、あゆちゃん。すごくかわいいよ」 そう山本さんが言っているのが聞こえる。 目線を動かすと、山本さんは私の胸を触っていた。 「や、やだ。やめて……」 「ちょっとだけ。今度来たら、またシャンパン頼むからさ」 何度か手を払いのけたが、無駄だった。 私はなすすべなく、山本さんに体をまさぐられ続けた。   つづく

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    Saiko
    2018.11.10

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  • 第6話 山本さんとの出会い

    ユタカくんとの結婚資金を貯める。 そう決めてから、1ヶ月。 私はなんとか自分の指名客を確保しようと躍起になっていた。 園田さんは積極的に私をフリーのお客様に付けてくれたけど、なかなか成果が出ない。 場内指名をもらえたとしても、それっきり指名が返って来なかった。 「一緒にプライベートでご飯食べに行こう」というお誘いだけが無駄に増えた。 私の指名客は橋田さんくらいしかいなかったが、橋田さんも月1回来るかどうか。 他の女の子は指名客が来て、シャンパンがどんどん出ているのに。 正直、めちゃくちゃ焦っていた。 とにかく何かしなくちゃ。 そう思い、待機室で連絡先を交換した人にひたすらLINEを送っていた。 「あゆちゃん。仕事だよ」 園田さんに呼ばれ、私はスマホをポーチに仕舞い、待機室から出た。 結局、LINEの返事は誰からも来なかった。 今から付くフリー客も、きっと同じような感じなんだろう。 キャバクラを合コン会場と勘違いしてくる客ばかり。 「ほら、あゆちゃん!やる気のなさが顔に出てるよ。もっとシャキッとして!」 いつもなら目が醒める園田さんの言葉だが、今日はもやもやが晴れなかった。 案内された席へ行くと、サングラス姿の30歳くらいの男が座っていた。 うちの店で若い客はめずらしい。 そう思いながら、営業スマイルを浮かべながら「失礼します」と声をかけた。 「お、来たね」 隣に座ると、さっそく肩を組んで密着してくる男。 私は嫌だなと思ったが、キャバクラではよくあることだった。 その体勢のまま、私はお酒を作り始める。 「君、すごくかわいいじゃん。入ってどのくらい?」 「まだ2ヶ月ちょっとくらいですね」 「ふーん、指名客たくさんいる?」 その言葉に、お酒を作る私の手が止まった。 今の質問は、一番聞かれたくないことだった。 「……おーい、ボーイさーん」 いきなり、男がボーイを呼んだ。 その声に、私はハッとして男の顔を見た。 しまった、つまらない女だと思われた? このままチェンジされてしまう……! やってきたボーイは、運の悪いことに園田さんだった。 「お客様、どうなさいましたか?」 園田さんは心配そうにお客様と私の顔を交互に見ながら聞いた。 私は恥ずかしさと後ろめたさで、ついうつむいてしまう。 「あのさ、伝票切ってよ。この子指名で飲み直しするから」 「かしこまりました。ありがとうございます」 伝票を切る?飲み直し?? それって、つまり私のことを本指名してくれるってこと!? あまりの急展開に、頭がついていかない私。 でも園田さんがグーサインしているのを見て、ようやく確信した。 「指名ありがとうございます。いきなりのことでビックリしちゃいました」 「そう?俺、気に入った子はすぐ指名するから。君の名前は?」 「申し遅れました。あゆといいます。お客様は……?」 「山本っていうの。よろしく」 これがのちに私の心に大きな爆弾を落とす、山本さんとの出会いだった。   つづく

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    Saiko
    2018.10.06

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  • 第5話 2年間で500万円

    「ユタカくんとの結婚費用を貯めるぅぅうううう!?」 頭の中がキーンとするくらい、控え室中に園田さんの大きな声が響いた。 誰かに聞かれたらどうしようと思ったが、女の子はみんな帰ったようだった。 たまに廊下で清掃する新人ボーイが忙しそうに行き交っている。 私は少しほっとして、視線を園田さんへと戻した。 「それがあゆちゃんのお金を貯める目標!?なにそれ、ユタカくんに結婚しようって言われたの!?」 「いや。そういうわけじゃないんですけど……、そうなったらいいなぁっていう願いも込めて」 そう伝えると園田さんはあきれ顔を浮かべつつ、椅子へ座り込んだ。 私もそれに続き、園田さんの前に座る。 そう、私がお金を稼ぐ理由は『ユタカくんとの結婚資金を貯めるため』だ。 私はユタカくんとずっと一緒にいたい。 ユタカくんと会うために生きてるといっても過言じゃない。 だから、お金を貯める目標もユタカくん関連じゃないとやる気が出ないと思った。 「まぁ~別にそれでモチベーションが上がるならいいんだけどさ……。いくらくらいが目標なの?」 「結婚式の費用の平均って355万くらいだったんですよ。なので、とりあえず多めに500万くらいは貯めたいなって思ってます」 「500万ね。それ貯めたら、あゆちゃんは夜から足を洗える?」 思いもよらない言葉に、きょとんとしてしまった。 「キャバクラはいつまでもいていい場所じゃない。最近は熟女ブームで30代、40代になっても働ける店はある。でもね、やっぱり日に当たる仕事じゃないから後ろ指差されることが多いんだよ。傷つかないよう、若いうちに稼ぐだけ稼いでサクッとやめた方がお互いにいい。だから俺が担当になった女の子には、目標を決めさせてる。そして目標を達成したら店を辞めるように説得してるんだ」 最初ユタカくんにキャバクラで働くことを誘われた時、「怖い人たちが経営してるんじゃないの?」「男の人をだますお仕事なんだよね?」なんて質問したりした。 今はそんなことはないって理解してるけど、世間の目は最初の頃の私とそう変わりはないだろう。 園田さんは、私の将来のこともきちんと考えてくれているんだ。 「俺的にはできるかどうかわからない結婚よりも、転職活動をする時のための生活費にした方がいいと思うけどね。あゆちゃんは浪費するタイプじゃないし、昼職でもちゃんとやっていけるんじゃない?まだまだ若いんだしさ」 「はぁ……」 私は正直、『転職』「昼職』と言われてもいまいちピンと来なかった。 ただ、またスーパーのレジ打ちをするのは勘弁して欲しいな、という気持ちだけだ。 「今のあゆちゃんなら、500万なら2年くらいで貯められるんじゃない?」 2年後となると私は21歳。ユタカくんは25歳だ。 結婚には少し早いけど、同棲しながら将来に向けて準備をするのにはいい頃かもしれない。 「そうですね。とりあえず、2年間で500万貯めるのを目標にします!」 そう元気良く宣言した私を、園田さんはジトッとした目で見つめてこう言った。 「絶対ホストに使うなよ」 ……私は、まだまだ信用されていないようだ。   つづきはこちら⇒第6話 真田さんとの出会い

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    Saiko
    2018.08.25

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  • 第4話 私の夢、見つけた

    いつもは明かりがついているはずの家なのに、その日は真っ暗だった。 笑顔で出迎えてくれるママの姿もなかった。 「ママ、ママ、どこにいるの?」 私はそう呼びかけながら暗い部屋をゆっくりと歩く。 自分で電気をつければいいのに、そうしなかった。 もしかしたらこの後に起こる出来事を、無意識に理解していたのかもしれない。 リビング、キッチン、お風呂場……。 1階にはママはいない。 私はゆっくりと、2階へと上がっていく。 階段を上がると、目の前はママとパパの寝室だ。 扉は開いていて、人影もあった。 「ママ、良かった。そこにいたのね」 ママは私の言葉に答えることなく、ただブラブラと体を揺らすだけだった。     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇     「あゆちゃん」 遠くで、やさしい声がする。 「あゆちゃん、起きて」 ママが私を起こしてくれている。 あぁ、そうか。今のは怖い夢だったんだ。 きっと目を開ければ、微笑んでいるママがいるはず。 「あゆちゃん、大丈夫?」 「………ユタカくん?」 私の大好きなユタカくんが目の前にいる。 ここは私の部屋で、自分のベッドの上にいる。 「うなされていたから起こしちゃった。大丈夫?泣いてるみたいだけど」 そう言われて顔を触ると、ぐっちゃぐちゃに濡れていた。 私、なんでこんなに泣いてるんだろう? なにか、夢を見ていたきがするけど…… 「ごめん、どうしちゃったんだろう、私」 「大丈夫だよ、怖い夢を見たんだね。よしよし」 ユタカくんは私をやさしく抱きしめ、頭を撫でてくれた。 あったかい……。 私はしばらくそのままユタカくんに身をゆだねた。 やっぱり、人に抱きしめられるのはとても気持ちがいい。 ……でもどうしてユタカくんがここにいるんだろう? その疑問を伝えようとユタカくんを見ると、察したかのように話し始めた。 「ごめんね。しばらく来れないって言ってたけど、あゆちゃんに会いたくて来ちゃった」 なんてうれしいサプライズなんだろう! 私は今度は自分からユタカくんに抱きつき、喜びを表現した。 「あゆちゃん、どうした?なんか仕事で嫌なことがあった?」 「ううん、怖い夢を見てたみたい。でもユタカくんがいるのがうれしくって忘れちゃった」 ユタカくんがそばにいてくれるなら、悪夢なんて怖くない。 むしろずぅっとユタカくんがそばにいるなら、悪夢を見続けたっていい。 そう思った瞬間、私はなんだか怖くなって、ユタカくんの存在がちゃんとリアルなのか確かめようとさらに力を入れてユタカくんを抱きしめた。 「よしよし。あゆちゃん、大丈夫だよ~。甘えんぼさんだね」 ユタカくんはいつだって、100%私を満足させてくれる答えをくれる。 大好き。本当に大好き。大事な人だ。 そう思った時に、ふと園田さんの言葉を思い出した。 ーーーーーお金を稼ぐ理由になる夢や目標を持った方がいい。もちろん他人のためじゃない、自分のためだけの目標だ。 「見つけた」 「え?」 「私、お金を稼ぐ目標見つけたよ!」 突然の私の発言に、目を白黒させるユタカくん。 「え、なに?目標?」 「うん!秘密だけど」 「えー、教えてよ!」 「ふふふ、絶対にダメ!」 ユタカくんには私のことを包み隠さず話してきた。 でも、この目標だけは黙っておく。そう心に決めた。     つづきはこちら⇒第5話 2年間で500万円

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    Saiko
    2018.08.11

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  • 第3話 お金を稼ぐ理由

    「お疲れ様でしたー」 「お疲れ様、明日もよろしくね~」 お店が閉店してからは、みんなそそくさと帰り支度をする。 アフターへ行く、そのまま徒歩で帰宅する、ドライバーに送ってもらう……。 女の子によってそれぞれ違う。 私は……… 家に帰っても一人ぼっちだし、明日はオフの日。 漫画喫茶にでも行って時間をつぶそうかな~と思いながら店を出ようとした。 「あゆちゃん、待って!」 振り返ると、園田さんが立っていた。 それを見て、フロアに行く前に園田さんが私に何か言おうとしていたことを思い出した。 「あ、園田さんごめんなさい!忘れてました。私に何か用事が?」 「うん、まぁ……今日はこの後どこか行くの?」 「あー漫画喫茶とかに行こうかなぁ~って思ってました」 そう言うと、園田さんはいきなり笑い出した。 私は何がなんだかわからず、「え?何?何ですか?」と問いかける。 「いや、ごめんごめん。てっきりホストに行くのかと思って…」 「ホスト?あ、ユタカくんのところですか?」 すると、いきなり園田さんの目が真面目になった。 「あゆちゃん。ユタカくんとはどういう関係なの?」 「え………?」 私とユタカくんの関係。 ユタカくんは、何もない私に声をかけてくれた。 やさしく微笑んでくれた。 お仕事を紹介してくれた。 抱きしめて、キスをしてくれた。 特別だよって、言ってくれた。 「ユタカくんは、私にとって大切な人です」 そう言うと、園田さんは困ったように頭をかき始めた。 「俺が聞いているのはそうじゃなくって…、ユタカくんのお店には行ってるの?」 ユタカくんのお店は歌舞伎町のホストクラブ。 初めて会ったその日、「お金はいらないから」と誘ってくれた。 「一度だけ行ったことがあります」 「一回しか行ったことないの?誘われたりしない?」 「いえ、特に……、ユタカくんはうちに来てくれるし」 しまった!と思った。 キャバ嬢である以上、ボーイさんにも男性の影を匂わすのは良くないと思ったからだ。 でも園田さんは私をたしなめるでもなく、考えこんでいる様子。 「うーーーーん、お金を要求されたりとかもない?」 「そんなこと一回もないですよ!」 「そうかぁ……じゃあもしもユタカくんにお店に来てって言われたり、お金を要求されたりしたら教えてくれる?」 園田さんは、私のことを心配してくれている。 そりゃそうだよね、まったくの素人の私がホストに紹介されてキャバクラに入店したんだから。 ホストクラブに通い詰めて借金してる…って思うのが普通だ。 「ご心配、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。ユタカくん、やさしいから」 安心させようと思って言った言葉だが、園田さんの表情はますますこわばっていった。 私は慌てて次の言葉をつなげようとしたが、それよりも先に園田さんが口を開いた。 「あゆちゃん、君は何でキャバクラで働いているの?どうしてお金を稼ぎたいの?」 私が質問の意味を理解しようと数秒間が開くと、矢継ぎ早に次の言葉が続いた。 「生活のためなら前やっていたスーパーのバイトでもどうにかなっていたよね?でも君は今、普通の会社員よりもたくさん稼いでいる。なんでそんなにお金が必要なの?」 確かに、キャバ嬢になる前も底辺な生活だったけど生きてはいられた。 それにレジ打ちの時よりも今の仕事が楽かって言われたら、まったくそんなことはない。 むしろ性を売り物にしている自分に対して、自己嫌悪になるばかりだ。 でも、それでも。ユタカくんに薦められたから。 「かわいい」って言われたのがうれしかったから。 黙っているのが答えだと感じたのか、園田さんは私の頭をぽんぽんとやさしく叩きながら 「お金を稼ぐ理由になる夢や目標を持った方がいい。もちろん他人のためじゃない、自分のためだけの目標だ。また聞くから、その時に答え聞かせて。」 そう言って、園田さんはお店へ戻っていった。 「夢や目標かぁ……」 そんなもの、考えたことなかった。 生きるので精一杯だったから、考える余裕もなかった。 でも私は今、しっかり稼げる仕事もあるしユタカくんもいる。 園田さんみたいに心配してくれる人も少なからずいる。 なんだかじんわりと胸が熱くなった気がした。 つづきはこちら⇒第4話 私の夢、見つけた

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    Saiko
    2018.07.28

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  • 第2話 キャバ嬢という仕事

    ユタカくんから紹介されたキャバクラで働き始めて約1ヶ月。 レギュラー出勤だとさらに時給を出すってことだったので、私は週5日休まず働いている。 私は時給4,000円で、そこにドリンクや同伴などのバックがプラスされていく。 また売上に応じて時給もアップするから、頑張れば頑張るほど稼げるシステムなんだ。 スーパーで働いていた時はいかに効率的にレジ打ちしても時給は変わらず900円。 もたもたと仕事をする他のバイトと同じ給料なのが納得いかなかった。 でもその点キャバクラは、自分の頑張りがそのままお給料につながる。 それが私にとって、とても居心地が良かった。   「あゆちゃん、同伴お疲れ様~!もう仕事は慣れたって感じ?」 陽気に話しかけてきた彼は、ボーイの園田さん。 私の担当で、いつも色々とアドバイスをくれる人だ。 「そうですね、おかげさまで。指名してくれる人も少しずつ増えてきましたし」 「またまた!ご謙遜を。今日は橋田さんと同伴だったんでしょ?新人さんとは思えないな~」 園田さんはかなりやり手のボーイで、私に本当に良くしてくれている。 体入時、ガチガチになっている私に色々と話しかけてくれて緊張をほぐしてくれた。 お客様の特徴や接客マナー、会話のコツなんかも詳しく教えてくれた。 私がキャバクラを嫌いにならなかったのも、園田さんのおかげと言っても過言ではない。 今日の同伴だって、実は園田さんがお客さんに口添えをしてくれたのを私は知ってる。 でもそんなことは一言も言わずに、すべて私の手柄にしてくれている。 本当にボーイの鏡だなぁ、と思う。 「同伴は大丈夫だった?」 「あ、はい。園田さんのアドバイス通り、野球の話を振ったら楽しそうにずっと話してくれました」 「良かった。あと橋田さんは子供の話もデレデレしながら話してくれるから、今度聞いてごらん」 こういうのを聞くと、園田さんが女の子だったら売れっ子キャバ嬢になれただろうなって思う。 「それとあゆちゃんさ……」 「あゆちゃーん!はやくフロア入ってくれる?お客様待ってるよー」 園田さんが私に何かを話そうとした瞬間、店長からの呼びかけが。 私はすぐ返事をして、園田さんに「すみません」と声をかけてフロアへ向かった。   「あゆちゃーん!またドレスになるとかわいいねぇ」 同伴でも豪快に飲んでいた橋田さんは、もう完全に出来上がっていた。 「あははーありがとうございます。橋田さんが青が好きって言ってたので、今日は青のドレスにしてみました」 「えーうれしいなぁ。すごく似合ってるよ~」 橋田さんはそう言うと、すかさず私の手を握って距離を詰めてきた。 さらに私の手を自分の顔に当てると 「やっぱり若い子の肌はいいね~スベスベだよ~」 と言いながら私の手をほっぺたで滑らせる。 顔の油が手にべっとりとつく感触……すごく気持ちが悪い。 でもその気持ちが顔に出ないように、口角は上げたままキープ。 「ありがとうございます~。そういえば橋田さん、お子様がいるって聞きましたよ。おいくつくらいなんですか?」 そう聞きながらさりげなく距離をとり、お酒を作り始める。 橋田さんも私の質問に気をとられ、特に違和感を持っていない様子だ。良かった。 「ん~~?今ね、大学生に入学したばかりだよ。本人は一人前のつもりでいるけど、まだまだ子供で困っちゃうよ」 大学入学ということは、今年で19歳……。私と同い年だ。 父親が自分と同い年の女の子にデレデレしてるなんて子供は知らないんだろうな。 その後もお酒を飲みながら、ひたすら子供トークを続けた。 「橋田さんのお子様なら、すごく頭が良さそう!」 「わ、これがお子様ですか?かわいい~!!」 「橋田さん、素敵なお父様でいらっしゃるんですね」 キャバクラの仕事はとにかくお客様を褒める。 どんな話題でも最後はお客様を褒める。 慣れてくるとけっこう単純作業だから、接客しながら他の事も考えられるようになる。 園田さんのアドバイス通りにしてれば本当に失敗はないな…… 私の父親も、こんなおっさんみたいになってるのかな…… あぁ、早くユタカくんに会いたいな…… しゃべりながら、そんなことをぼんやりと考えていた。   つづきはこちら⇒第3話 お金を稼ぐ理由

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    Saiko
    2018.07.07

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  • 第1話 私の王子様

    小さい頃、ママが読んでくれるおとぎ話が大好きだった。 お話にはいつもお姫様が登場して、 辛いことや悲しいことがあったとしても頑張って乗り越えて、 最後は大好きな王子様と結ばれてハッピーエンド。 「それからお姫様は王子様と、末永く幸せに暮らしました」 そう言って本を閉じると、 ママはいつも微笑んで私の頭を撫でてくれた。 そして決まってこう言うの。 「あゆちゃんにはきっと王子様が現れるわ。 強くてかっこよくて、あゆちゃんを守ってくれる王子様が。 王子様が現れたら、絶対に繋ぎとめておかなきゃダメよ」 うん、わかったよ。ママ。 あゆちゃんに王子様が現れたら、絶対に離さないよ。 ずぅっと、あゆちゃんのそばにいてもらうからーーーーーーー。     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇   ピピッピピッピピッ…… 目覚ましの4度目の音が鳴る前に、私は目覚ましのスイッチを切った。 いつもだったら乱暴に目覚ましを止め、また鳴り始めるまで二度寝してしまうところ。 でも、今日は違うの。 なぜなら大好きなユタカくんが私の部屋に泊まりに来ているから! 私はユタカくんを起こさないよう、そっとベッドを抜け出してキッチンへ。 彼が目覚める前に朝ごはんを作ろうと準備を始めた。 ………朝ごはんと言っても、実はもう午後2時なのだが。 でも私とユタカくんにとっては、これが朝の時間なのだ。 今日の朝食は、トースト、目玉焼き、コーンスープ、サラダ。 軽食だけど二日酔いの私たちにはこのくらいがちょうどいい。 トーストが焼けたところでユタカくんが起きてきた。 「あゆちゃん、おはよう!ご飯作ってくれたの?」 「おはよう!うん、簡単なものだけど」 「十分だよ!食べよー」 そう言って彼は自分でお皿を出してくれ、トーストにバターを塗り始めた。 何も言わなくても自分から準備を手伝ってくれる彼をみて、改めて「好き」と心の中で呟く。 大好きな人と一緒に食事をする。 これがこんなに愛しい時間だなんて、最近まで気づかなかったなんて。 私は幸せを噛み締めながら、トーストを口にくわえた。 ユタカくんがバターを塗ってくれたからか、いつもより何倍もおいしく感じる。 「あ、僕が半熟好きなの覚えててくれたんだ?うれしい!」 「この時間にしっかりご飯を食べるの久々だから染みるな~。ありがとう」 ちょっと大げさってくらい、感謝の気持ちを言葉で伝えてくれる。 私の王子様はとてもやさしくて、いつも心があったかくなる。 「あ、そういえばあゆちゃんは今日同伴あるの?」 せっかくの幸せ気分が、その一言で現実に引き戻された。 「………うん、19時に待ち合わせしてる」 「そっかぁ~、こっちは18時から。あと2時間ちょっとしたら出なきゃ」 あと2時間でこの幸せな時間が終わる。 そう思うと、私のあたたかな心がどんどん冷え切っていくのを感じた。 「今日はユタカくん、うちに帰ってくる?」 「いや、朝までアフターだから無理かな。来週は締め日だし、そんなに来られないと思う。ごめんね」 同伴、アフター、締め日……。 どんどん現実に引き戻される言葉が出てきて、さらに憂鬱になった。 私の王子様、ユタカくんは歌舞伎町の売れっ子ホストだ。 そして私はつい最近キャバクラに入店した新人キャバ嬢。 もともと私はスーパーでアルバイトをしているフリーターだったのだが、 「あゆちゃんはかわいいから、絶対にキャバ嬢になった方がいいよ」 とユタカくんに誘われ、言われるがまま紹介してもらったお店に入店した。 そう聞くと、誰もが『カモられてるじゃん』って思うかもしれない。 でもそれはまったくの誤解だ。 キャバ嬢になって1ヶ月経ったが、ユタカくんはホストクラブへ連れて行こうとしない。 むしろ前よりもうちに来る頻度が増えて、一緒にいる時間が増えた。 「あゆちゃん、そんな顔しないで。来月になったらまたいっぱいここに来るから。あゆちゃんは特別だからね」 そう言ってユタカくんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。 あゆちゃんは特別だからーーーーーー。 それってどういう意味だろう。 ユタカくんは私の王子様。 そしてユタカくんにとって、私はお姫様ってことかな? 私のその疑問に答えるかのように、ユタカくんはやさしくキスをしてくれた。     つづきはこちら⇒第2話 キャバ嬢という仕事

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    Saiko
    2018.06.30

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