いつもは明かりがついているはずの家なのに、その日は真っ暗だった。
笑顔で出迎えてくれるママの姿もなかった。
「ママ、ママ、どこにいるの?」
私はそう呼びかけながら暗い部屋をゆっくりと歩く。
自分で電気をつければいいのに、そうしなかった。
もしかしたらこの後に起こる出来事を、無意識に理解していたのかもしれない。
リビング、キッチン、お風呂場……。
1階にはママはいない。
私はゆっくりと、2階へと上がっていく。
階段を上がると、目の前はママとパパの寝室だ。
扉は開いていて、人影もあった。
「ママ、良かった。そこにいたのね」
ママは私の言葉に答えることなく、ただブラブラと体を揺らすだけだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あゆちゃん」
遠くで、やさしい声がする。
「あゆちゃん、起きて」
ママが私を起こしてくれている。
あぁ、そうか。今のは怖い夢だったんだ。
きっと目を開ければ、微笑んでいるママがいるはず。
「あゆちゃん、大丈夫?」
「………ユタカくん?」
私の大好きなユタカくんが目の前にいる。
ここは私の部屋で、自分のベッドの上にいる。
「うなされていたから起こしちゃった。大丈夫?泣いてるみたいだけど」
そう言われて顔を触ると、ぐっちゃぐちゃに濡れていた。
私、なんでこんなに泣いてるんだろう?
なにか、夢を見ていたきがするけど……
「ごめん、どうしちゃったんだろう、私」
「大丈夫だよ、怖い夢を見たんだね。よしよし」
ユタカくんは私をやさしく抱きしめ、頭を撫でてくれた。
あったかい……。
私はしばらくそのままユタカくんに身をゆだねた。
やっぱり、人に抱きしめられるのはとても気持ちがいい。
……でもどうしてユタカくんがここにいるんだろう?
その疑問を伝えようとユタカくんを見ると、察したかのように話し始めた。
「ごめんね。しばらく来れないって言ってたけど、あゆちゃんに会いたくて来ちゃった」
なんてうれしいサプライズなんだろう!
私は今度は自分からユタカくんに抱きつき、喜びを表現した。
「あゆちゃん、どうした?なんか仕事で嫌なことがあった?」
「ううん、怖い夢を見てたみたい。でもユタカくんがいるのがうれしくって忘れちゃった」
ユタカくんがそばにいてくれるなら、悪夢なんて怖くない。
むしろずぅっとユタカくんがそばにいるなら、悪夢を見続けたっていい。
そう思った瞬間、私はなんだか怖くなって、ユタカくんの存在がちゃんとリアルなのか確かめようとさらに力を入れてユタカくんを抱きしめた。
「よしよし。あゆちゃん、大丈夫だよ~。甘えんぼさんだね」
ユタカくんはいつだって、100%私を満足させてくれる答えをくれる。
大好き。本当に大好き。大事な人だ。
そう思った時に、ふと園田さんの言葉を思い出した。
ーーーーーお金を稼ぐ理由になる夢や目標を持った方がいい。もちろん他人のためじゃない、自分のためだけの目標だ。
「見つけた」
「え?」
「私、お金を稼ぐ目標見つけたよ!」
突然の私の発言に、目を白黒させるユタカくん。
「え、なに?目標?」
「うん!秘密だけど」
「えー、教えてよ!」
「ふふふ、絶対にダメ!」
ユタカくんには私のことを包み隠さず話してきた。
でも、この目標だけは黙っておく。そう心に決めた。
つづきはこちら⇒第5話 2年間で500万円